宮崎駿という「漫画家」について
今や,日本を代表するアニメーターとなった宮崎駿先生。
同先生の紹介を行う必要はあるまい。
アニメ映画の方が目立つので少しかすんでしまっているが,
宮崎駿先生はしっかり漫画も描いておられる御仁である。
同先生曰く,「漫画は下手」とのことであるが,
なんのなんの。
先生のご性格からして,ご自身では本気でのそのように思っておられる様子だが,
もっと「漫画家」としての宮崎駿先生に着目されてもいいと思われる。
本記事では,宮崎駿先生の著作漫画等について寸評していきたいと思う。
「風の谷のナウシカ」
★★★★★
某書店などが尽力したおかげで,ワイド版が再度出版されている。
宮崎先生らしい一コマ一コマ丁寧に書き込まれた絵は,
現代の漫画とは趣向を異にする素晴らしさがある。
ストーリーについては賛否あるかもしれないが,
宮崎先生の代表的長編漫画として一見の価値あり。
「飛空艇時代」
★★★☆☆
模型雑誌に連載されていた短編漫画集。
紅の豚の元になった短編も収録。
「漫画」というカテゴリーでは少しどうなのだろう,という部分もある。
とても精密に描写されているが,ストーリー性が希薄なため,
どちらかというと画集の分類に当たるかもしれない。
内容はかなりミリオタ向け。
「泥まみれの虎」
★★★★☆
こちらは,上記「飛空艇時代」と異なって一応ストーリーのある漫画が収録されている。
前半は少しミリオタ寄り,後半は一般受けするものかと思われる。
漫画としては分量が少ないが,全編カラーの漫画は,見応え十分。
「シュナの旅」
★★★★☆
こちらは漫画というより絵本の分類になると思われる。
随所に後年のジブリ映画の原案になったであろうアイデアがちりばめられている。
内容はミリタリーというより童話に近い。
独特の雰囲気は,ジブリが成功した根源を思わせる心地よさである。
この雰囲気,空気感が宮崎作品の素晴らしさだと思う。
「風立ちぬ」
★★☆☆☆
映画の原作となった宮崎作品の漫画。
ストーリーもあり,宮崎作品の中では比較的長編なのだが,
どうにも「雰囲気」が感じられない。
漫画にするとよりミリオタ寄りであることも一般受けしにくいところか。
<勝手に寸評>
前述したように,宮崎先生はご自身を評して「漫画が下手」であるという。
当職からの率直な意見を申し上げるとすると,漫画が「下手ではない」,
しかし,漫画だと「生かし切れていない」と思われる部分が残るように思われる。
宮崎先生の作品は,その醸し出す雰囲気が一級品であるのに対し,
漫画作品になると,惜しいかな「あと一歩」が足らないように思われるのである。
その一歩が果たしてなんなのか。
個人的には,露骨でミーハーな「演出」だと思われる。
押し付けた感動でもいいし,コテコテの勧善懲悪でもいい。
宮崎先生からすると,安っぽい演出やわかりきったクライマックスについては,
抵抗がおありになるのかもしれない。
しかし,映画「もののけ姫」あたりまでは,
映画でもそこそも大団円クライマックスだったように思うし,
だからこそいつまでも支持されているように思うのである。
当職は,押し付け感動系の漫画はあまり好きではない。
が,宮崎先生の漫画は,あえての押し付け感動系であったほうが成り立つのではないかと思うのである。
いやはや,当職の愚考など釈迦に説法と思われる次第で恐縮であるが,
勝手に寸評させていただくことにする。