【漫画の処方箋】松本零士著「戦場まんがシリーズ(ザ・コクピット)」

今回は,失われた?美学を語りたいので,先に漫画の成分から・・・。

※言わずもがな,当職の勝手な価値観なのでご放念いただければ幸いです。

 

<成分>

ストーリー ★★★★★

短話完結型,きれいにまとまる短編集なので,読んでいて苦痛がない。

それでいて1話1話はさすが松本零士先生と思わせるもの。

★5つは当然。

 

絵柄 ★★★★☆

松本零士先生で何で★4なのか!と憤慨されるかもしれないが,

やはりどうして昭和のにおいがするのは否めない。

現代っ子にはちょっと古臭いかなと,若者に配慮しての★4。

当職は好きですよ。機械の書き込みは徹底し,人はデフォルメも含め,誇張したガサガサ系の絵柄。ほんとにディスってないから。

 

バトル ★★★★☆

好が分かれる完全ミリタリー寄りの戦闘シーン。

かといって,ミリタリーの現実性を追究したわけではなく,あくまで漫画としての楽しみを追究したものといえる。

どの層にも受け入れられると思われるが,振れ幅はどちらかと言えば中間層のバトルシーンかもしれない。

 

エロ ★★★★☆

雰囲気系のエロ。

絵柄がご存知の絵柄なので,エロ描写に徹底しているわけではないが,

何とも言えないエロさがある。

こういう漫画が好きなんですよね。当職。

 

ミリタリー ★★★☆☆

色んな兵器が登場する。

ティーガーなど,メジャーラインが多いかな。

ミリタリー漫画としては王道でミーハーな感じがするかも。

 

<ここが凄い!>

先にも述べたとおり,この漫画の素晴らしいところ,いや,美しいところは

なんといっても「失われた美学」がそこにあると言えるからだと思う。

 

松本零士先生の漫画のいいところ。

それは,男に信念と根性とプロ意識があるところ。

女が徹底して美しいところ。

これが貫かれた漫画というのは,どうにも最近あまりない。

 

本稿紹介のシリーズでよく見かけるのは,「美女と野獣」設定である。

この設定は,ディズニーなんかでもあるように,古典的な設定といえよう。

ゆえに,単なる「美女と野獣」では,ただただ,主人公がうらやましいだけの設定である。

余りに露骨な「美女と野獣」設定では,貼り付けたような設定であるが故に,

漫画としての面白さを損なってしまうのである。

そのため,「美女と野獣」設定は,古典的でありながら取扱いが難しい。

 

しかし,松本零士先生は,そのあたりの描写に極めて妙があり,

美女と野獣」設定を生かし尽くす上手さがある。

 

昨今,いわゆる「ハーレムもの」や「やれやれ系」の男主人公に,

なにが悲しいか美しいヒロイン(たち)が懸想する等の漫画が氾濫している。

当職,全く以て面白いとも思わないし,美しいとも思わない。

 

何故美しくないか。

それは,「惚れる理由がよくわからないから。」に尽きると思われる。

余りに現実離れした「美女と野獣」は,どーせ漫画だからね・・・で終わりである。

それは,美しくない。

 

松本零士先生の描く醜男は,なぜかカッコいい。

美女が惚れてしまうのもわかるのである。

説得力の違い,これが,昨今氾濫する説得力のない「美女と野獣」設定との大きな差なのである。

 

そして,なぜ松本零士先生の描く醜男がカッコいいのか。

この平成のご時世に精神論を説くのも愚かではあるが,

何しろ一本筋が通っている。

根性がある。

プロ意識がある。

美醜にかかわらず,いつの時代も命を賭けた男の生き様にはカッコよさがある。

そして,極めつくしたプロ意識には,殉教精神にも等しい,

人を惹きつける何かがある。

 

人から強制される精神論ほどバカバカしいものはない。

誰もがなぜそんなことに命を賭けるのかわからない中で,

誰に何と言われようと俺はやる!という自発性の強い精神に対して,

当職は何とも言えぬ美しさを感じるのである。

そして,その精神は,練られた技術,学問,鍛錬のバックボーンがあるからこそ,ただの蛮勇と違うのである。

この美しさを,登場する美女は感じ取っている,だからこそ,惚れる。

松本零士先生の漫画は,美学の理論に説得性があるから,美しい。

 

・・・・と思うのである。

当職,この手の美学については,最近あまり見なくなったな,と思う。

だからこそ,「失われた美学」と名付けさせてもらった。

 

そういう漫画,これからもでてこないかなぁ。