【漫画の処方箋】曽田正人著「昴」
「死せる孔明,生ける仲達を走らす。」
既に亡き人物が,その生前の威光や権威によって生きている人物に大きな影響を与える謂である。
本当に申し訳ないが,上記古言と本投稿とは関連性がない。
何が言いたいか,というと,読み手を走らせる漫画が存在する,ということを言いたいのである。
じゃあ,先の古言はいらんがな,との声が聞こえてきそうである。
その通りである。深く謝意を述べる次第である。
錯綜した冒頭に引き続き,本題に入るとする。
興味を持った時には,既に一定数の既刊が出ている漫画が存在する。
当職は,雰囲気などで取敢えず1巻だけ買う場合,3巻ほど買う場合,全巻買うという暴挙に出る場合がある。
全巻買うような暴挙(以前の記事「夏の前日」など)に出ることは,
まぁあまりない。
8割方1巻のみを購入し,残り1割5分ぐらいが3巻まとめ買いであろうか。
当回でご紹介する「昴」,ご存じのとおり「め組の大吾」で名をはせた,
曽田正人氏の著作である。
漫画が上手いのはお墨付きであろうから,3巻まとめ買いした。
早速1巻を読了し,流れるように2巻を読了する。
3巻を読了したときに,当職は決意した。
「続きを読まにゃいかん」
確か,3巻を読了したときは,夜もとっぷり暮れていた様に記憶しているが,
この漫画の熱量は,そんなことを構いつける暇などないものであった。
当職は夜走獣のごとく,夜の街を疾走し,残りの既刊を購入せざるを得なかった。
良い漫画は,人を走らせるのである。
なお,「昴」の他に,雨の中原付を疾走させて続きを買いに走った漫画がある。
花沢健吾著「ボーイズオンザラン」である。
まさにタイトルの如しである。この漫画も併せておすすめしたい。
≪成分≫
スポ根 ★★★★★
恋愛 ★☆☆☆☆
主たる漫画成分は,「スポ根」漫画であるといえる。
絵柄は表紙からもわかるように,コッテリキラキラ系のいかにも恋愛しそうな女性が描かれているが,完全無欠のスポ根漫画である。
汗と涙と美しいポワントで構成された漫画である。
絵柄 ★★★★☆
主人公は眉目秀麗,スタイル抜群であるが,それをキラキラ感満載かつ勢いのある筆致で描写しており,単にキラキラ系の漫画ではない。
さすがは曽田氏,人体のデッサン,人間の美しさを表現する素晴らしい画力をお持ちである。
バレエ漫画のバガボンドのような感じ。
ストーリー ★★★☆☆
とってもいいんですよ。とっても。しかし,なんかもやっとする終盤と終わり方については賛否があってもいいのでは。
特に,中盤の盛り上がりはマジで鳥肌ものです。というか,鳥肌たった。
よくもまぁ,漫画でこれだけの表現ができたものだと感心。
もし,終盤と終わり方が完璧ならば,確実に殿堂入りした漫画と言えよう。
≪ここが凄い!≫
この漫画,従来のスポ根漫画と一線を画する部分がある。
スポ根漫画に必須の要素である,圧倒的熱量を備えていること。
それは十分であるといえる。
ただ,スポ根漫画は,熱量を一歩間違うとあまりにも人間離れした必殺技のオンパレードでドラゴンボール化してしまう危険性もある。
そうなると,スポーツ漫画としてのリアリティを欠損してしまう。
スポーツ漫画のリアリティと熱量,このバランスが難しいのである。
「昴」は,その人間離れした熱量部分を,
「幻想的」に描くところが絶妙なセンスといえる。
「幻想的」な雰囲気と「スポ根」は一種相容れない部分があるものの,
「昴」では,それを作者の腕で適切にマッチさせているのである。
少しいい方を変えれば,夢見心地でスポーツ観戦をしている雰囲気とでもいえようか。
≪読み方≫
当漫画を服用される際には,ぜひ一気読みしてほしい。
「昴」の幻覚作用を最大限引き出すためには,9巻丸ごと読めるだけのたっぷりした時間が必要だと思われる。
分割して服用すると,幻覚作用が減退してしまうかもしれない。