【漫画の処方箋】松本次郎著「フリージア」
読む層を選ぶというなら,この漫画ほど読む層を選ぶものはないかもしれません。
嫌いな人からすればアナフィラキシーショックを呈するやもしれません。
以下の成分をよくご覧になって,読むかどうか決めていただいたほうがよろしいかと思います。
≪成分≫
設定 ★★★☆☆
敵討ち執行代理人という職業が存在する世界を舞台にしたダークSF?の漫画です。
法を犯した償いについては刑罰を,遺族に対する償いは敵討ちを終えるまで,という,現代司法制度に一矢の疑問を投げかけるあたり,刑事政策的にも面白い設定です。
殺人などの被害を受けた人の遺族は,敵討ちの申立?をして,司法による処罰とは別に,犯人に対し敵討ちを仕掛けることができるのです。
犯人は,遺族らを撃退するなどすれば晴れて罪を免れるわけですが,敵討ちはドンパチやって戦うことになります。場合によっては,敵討ちを行う遺族が撃退されることもあります。
そこで登場するのが,敵討ち執行代理人なる職業の人たちです。主人公は,この敵討ち執行代理人であります。
早い話が,遺族はトーシロですから,専門の「代理人」を立てて敵討ち執行をすることが許されているのであります。無論,この専門の「代理人」は,一種の殺し屋的様相を帯びます。
これに対して,犯人側でも「警護人」を立てて防衛を図ります。
私選,国選の差があるあたりなど,いやはや,設定自体に魅力を感じるのは当職のみでしょうか。
ただ,このへんの描写にあまり興味がない方についてはなんともどうでもいいことなのかもしれませんので★3つ。
ストーリー ★★☆☆☆
秀逸な設定とは裏腹に,ストーリーはあるのかないのかよくわからない感じで進んでいきます。
気が付けば徐々に崩壊していく終末感は読む人を不安にさせることでしょう。
はっきりした道筋のない漫画なので,読んでいる間はあんまりストーリーの意識はないかもしれません。
滑稽度 ★★★★★
これも松本次郎先生著作の特徴ですが,独特の滑稽さが魅力でございます。
どいつもこいつも,登場する人物は真面目に生きているのか?と疑いたくなるようなシュールな滑稽さは,当たる人にはツボになるでしょう。
絵柄 ★★☆☆☆
ダークな雰囲気にマッチしたガサガサ感のある絵柄は,本作の雰囲気にぴったりです。
ただ,今風の絵柄ではありませんので,合う人と合わない人があると思います。
人物描写 ※人によっては★☆☆☆☆,人によっては★★★★★
人物描写は,松本次郎先生の漫画にありがちな,どいつもこいつも精神を加速させてしまった感じの人物描写です。
概ね,まともな人物は登場しません。
役所のモブキャラでさえ,精神が加速しております。
主人公に至っては,完全に精神を第三世界に飛ばしてしまっています。
ただ,精神の加速具合は松本次郎先生節といいますか,独特の描写になっております。
このあたりを面白いと思えるかどうか,本作を楽しめる分岐点になろうかと思います。
エロ ※場面によっては★★★★★
萌系エロとは完全に一線を画した,なんとも露骨な描写が散見されるのも本作のいいところ。
いわゆるエロ漫画の描写とはえらい違いの,なんか動物的なエロ描写であります。
人によってはエロというよりウォッとなりそうな,胸やけする感じは,完全に読む層を選ぶでしょう。
≪ここが凄い!≫
合う人には合う,合わない人には全く合わない,読者層を完全に選ぶ漫画です。
彼氏の本棚にフリージアがあって,何の気なしに読んだら彼氏ごと嫌いになる可能性すら秘めている,激しい副作用と快楽作用のある,強烈な薬効成分のある漫画でありましょう。
しかし,当職のように,松本次郎先生の著作に合う人間にとっては,まさに漫画本棚に光り輝く金字塔漫画になることでしょう。
ダークな世界観が好き
シュールな笑いが好き
ドンパチのバトルものが好き
エロ,グロがあっても大丈夫
萌漫画,可愛い絵柄でなくても大丈夫
というような感じの方は,ぜひ一度お手に取っていただいても大丈夫かと思います。