【漫画の処方箋】松本零士著「戦場まんがシリーズ(ザ・コクピット)」

今回は,失われた?美学を語りたいので,先に漫画の成分から・・・。

※言わずもがな,当職の勝手な価値観なのでご放念いただければ幸いです。

 

<成分>

ストーリー ★★★★★

短話完結型,きれいにまとまる短編集なので,読んでいて苦痛がない。

それでいて1話1話はさすが松本零士先生と思わせるもの。

★5つは当然。

 

絵柄 ★★★★☆

松本零士先生で何で★4なのか!と憤慨されるかもしれないが,

やはりどうして昭和のにおいがするのは否めない。

現代っ子にはちょっと古臭いかなと,若者に配慮しての★4。

当職は好きですよ。機械の書き込みは徹底し,人はデフォルメも含め,誇張したガサガサ系の絵柄。ほんとにディスってないから。

 

バトル ★★★★☆

好が分かれる完全ミリタリー寄りの戦闘シーン。

かといって,ミリタリーの現実性を追究したわけではなく,あくまで漫画としての楽しみを追究したものといえる。

どの層にも受け入れられると思われるが,振れ幅はどちらかと言えば中間層のバトルシーンかもしれない。

 

エロ ★★★★☆

雰囲気系のエロ。

絵柄がご存知の絵柄なので,エロ描写に徹底しているわけではないが,

何とも言えないエロさがある。

こういう漫画が好きなんですよね。当職。

 

ミリタリー ★★★☆☆

色んな兵器が登場する。

ティーガーなど,メジャーラインが多いかな。

ミリタリー漫画としては王道でミーハーな感じがするかも。

 

<ここが凄い!>

先にも述べたとおり,この漫画の素晴らしいところ,いや,美しいところは

なんといっても「失われた美学」がそこにあると言えるからだと思う。

 

松本零士先生の漫画のいいところ。

それは,男に信念と根性とプロ意識があるところ。

女が徹底して美しいところ。

これが貫かれた漫画というのは,どうにも最近あまりない。

 

本稿紹介のシリーズでよく見かけるのは,「美女と野獣」設定である。

この設定は,ディズニーなんかでもあるように,古典的な設定といえよう。

ゆえに,単なる「美女と野獣」では,ただただ,主人公がうらやましいだけの設定である。

余りに露骨な「美女と野獣」設定では,貼り付けたような設定であるが故に,

漫画としての面白さを損なってしまうのである。

そのため,「美女と野獣」設定は,古典的でありながら取扱いが難しい。

 

しかし,松本零士先生は,そのあたりの描写に極めて妙があり,

美女と野獣」設定を生かし尽くす上手さがある。

 

昨今,いわゆる「ハーレムもの」や「やれやれ系」の男主人公に,

なにが悲しいか美しいヒロイン(たち)が懸想する等の漫画が氾濫している。

当職,全く以て面白いとも思わないし,美しいとも思わない。

 

何故美しくないか。

それは,「惚れる理由がよくわからないから。」に尽きると思われる。

余りに現実離れした「美女と野獣」は,どーせ漫画だからね・・・で終わりである。

それは,美しくない。

 

松本零士先生の描く醜男は,なぜかカッコいい。

美女が惚れてしまうのもわかるのである。

説得力の違い,これが,昨今氾濫する説得力のない「美女と野獣」設定との大きな差なのである。

 

そして,なぜ松本零士先生の描く醜男がカッコいいのか。

この平成のご時世に精神論を説くのも愚かではあるが,

何しろ一本筋が通っている。

根性がある。

プロ意識がある。

美醜にかかわらず,いつの時代も命を賭けた男の生き様にはカッコよさがある。

そして,極めつくしたプロ意識には,殉教精神にも等しい,

人を惹きつける何かがある。

 

人から強制される精神論ほどバカバカしいものはない。

誰もがなぜそんなことに命を賭けるのかわからない中で,

誰に何と言われようと俺はやる!という自発性の強い精神に対して,

当職は何とも言えぬ美しさを感じるのである。

そして,その精神は,練られた技術,学問,鍛錬のバックボーンがあるからこそ,ただの蛮勇と違うのである。

この美しさを,登場する美女は感じ取っている,だからこそ,惚れる。

松本零士先生の漫画は,美学の理論に説得性があるから,美しい。

 

・・・・と思うのである。

当職,この手の美学については,最近あまり見なくなったな,と思う。

だからこそ,「失われた美学」と名付けさせてもらった。

 

そういう漫画,これからもでてこないかなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【漫画の処方箋】小池一夫著小島剛夕画「首斬り朝」

古今東西,あらゆる文化国家の中で,

平時「人を殺す」ことはどの国でも極めて重大な犯罪とされている。

各国において文化,法律,風習等が千差万別であるのに対し,

この1点については,いかなる時代を通じても人倫に反するとされてきた。

 

他方で,合法的に人を「殺す」刑罰として,

「死刑」が存在する。

我が国日本でも,最も重い刑罰として今なお死刑が定められている。

 

当職は,死刑の存廃について特段意見を持っているわけではない。

そして,ここで死刑の存廃の議論を行おうとするつもりもない。

ただ,最も反倫理的とされる行為の一つ,殺人が,

「死刑」として「合法」となる由縁はなんなのだろうか。

 

当職が愚考するに,死刑の合法性の根源は,

「説得力」ではあるまいか。

この「説得力」のために,人は「手続き」という「死の儀式」を用意した。

 

「死の儀式」には,それに関わる多くの人が登場する。

まず,発端となる「事件」の当事者たる,被害者と加害者。

そして,「事件」に関与する人たち。

ひとたび「事件」が起こった後に,「儀式」を遂行する人たち。

最後に儀式を完結させる者たち。

 

「儀式」に関与する人々が,「説得」する相手は誰であろうか。

あるときは儀式を執行する自らであろうし,

あるときは世間という実態のないものであろう。

そして,あるときは,受刑者であろうか。

儀式が完結するとき,

「儀式」を執り行うもの,「儀式」を受ける者,

「儀式」を見守る世間,それらは納得して死を受け入れたであろうか。

納得して初めて,「殺人」が「死刑」になるならば,

「儀式」の成否如何によって,行為の合法性が保たれるのであろう。

 

多くの漫画,文学においても「死刑」にまつわるテーマは多い。

多いだけに,当職もいささか目が肥えてきた。

今回ご紹介する「首斬り朝」は,自称目の肥えた当職が,

「死刑」をテーマとする作品の中でも一押しの珠玉の名作である。

 

<成分>

ストーリー ★★★★★

短話完結であるが,長短に差がある。

恐ろしく短いものも,複数話にわたるものもあり,その緩急もまた面白い。

何より,一話一話の完成度がただ事ではない。

江戸時代の刑事訴訟法に触れるものもあれば,

人間の根幹にかかわるものもあり,

まずもって「面白い」と断言できる内容である。

ただ,どうしてもテーマが重いので,

気楽に漫画を楽しみたい方には不向きか。

じっくり1頁1頁かみしめて読んで頂きたい。

 

絵 ★★★★(★)

極めて高いデッサン力に裏打ちされた,

完全無欠の劇画である。

また,作品の雰囲気に激しくマッチした画風は,読むものを引き込むことであろう。

もっとも,現代風のライトなタッチに慣れた人からすれば,

どうしても劇画にアレルギーを感じるかもしれないので()を付けた。

 

雰囲気 ★★★★★

しっかりした時代考証が当時の雰囲気を強く醸し出す。

一人一人の登場人物がその時代に生きた人間であることを徹底的に描写して居るほか,

一コマがそれぞれ一枚絵になる感覚は芸術そのもの。

正に★5つ。

 

エロ ★★★★☆

エロいです。

人間の欲望がそのまま凝縮されたようなエロ描写は,

過剰な演出なくエロい。

生々しいですわ。

 

<ここが凄い>

何と言っても,この漫画の凄いところは「説得力」であろうか。

唯一無二の独創的な各話は,

時代が異なり,考え方が異なるにもかかわらず,

強い説得力がある。

だからこそ,死をテーマにした作品の中でも際立った光を出しているといえる。

時代が変わっても,考え方が変わっても,文化が変わっても,

人の根本は変わらないのではないかと思わせる,

読む者を納得させる稀有な作品として,是非とも読んで頂きたいシリーズである。

 

<余談>

主人公の山田朝右衛門は,実在の人物である。

この漫画のような感じかどうかは不明だが,実際に斬首を執行した山田家は実在した。

明治になって最後の斬首を行ったのも山田家の人物であり,写真が残されている。

小説では,綱淵謙錠「斬」直木賞受賞作品)がある。今回ご紹介した「首斬り朝」とはえらく趣きが違うのでその点は注意。

 

また,ヨーロッパの死刑執行人「ムッシュ・ド・パリ」をテーマにした,

坂本眞一著「イノサン」「イノサン ルージュ」も一読の価値あり。

 

 

 

 

 

 

【漫画の処方箋】山本英夫著「殺し屋1」

先日,CGで作られた表現物が児童ポルノに該当するとする地裁判決が出た。

当該CGは,極めて精巧なものらしく,実物と見まがうほどであるという。

これに対して,作者側(被告人)は,CGは創作物であり児童ポルノではないと主張した。

 

結果は有罪。

猶予付判決であるものの,懲役刑が選択されたあたり,結構重い判決であろう。

 

これまで,実在する児童を対象としなければ児童ポルノとして起訴されておらず,

CGを児童ポルノとした点は画期的であるといえる。

この事件の特徴は,実際の児童ポルノを参考にCG化したものという点であり,

必ずしもエロゲームの類一般に規制がかかる判決ではないと思われる。

まだ日本では,完全な創作物についてはいかにリアルでも合法であると判断される余地が多いと思われるのである。

 

CGが児童ポルノとして規制されるかどうかは,

今後議論の余地があると思われるが,

当職としては正直どうでもいい。

 

当職が本記事にて述べたいところは,

表現物の威力,である。

かつて,とある小説がわいせつ物に該当するのではないかとして最高裁で争われたこともあるが,

小説やCG,漫画も,その創作が極まれば,読み手の想像力を借りて,

法の規制が及ぶほどに達するのである。

 

法的な問題はともかく,

国家が規制しなければならないほどの表現物を作出するというのは,

創作者として賞賛に値するのではなかろうか。

 

今回ご紹介する漫画,山本英夫著「殺し屋1」は,

アカン方の意味である種の創作物の極致にあるのではないかと思われる作品である。

その表現力は賞賛に値すると当職は思うのであるが,内容が内容なので,手塚治虫系の賞を授与するなどは論外の作品である。

健全な青少年に勧めるなど,狂気の沙汰である。

 

勿論,アカン方にすごい漫画であるから,

服用に際しては,成分をよく読んで,用法用量をしっかり守らないと,

場合によってはショック症状を呈するかもしれないので注意が必要である。

 

<成分>

絵柄 ★★★★☆

過度な誇張がなく,かといって萌絵でもなく,また劇画でもない。

確かなデッサン力に裏打ちされ,ガサガサしていない絵柄は,作品の雰囲気を壊さない。

また,ぐちゃぐちゃの絵を描いてエグさを表現するという感じでもない。

高い評価が与えられること必至。

 

ストーリー(筋道) ★★★★☆

核心部分によくわからないところもあるが,一本筋の通ったストーリーは寄り道を感じさせない。

漫画全体を通して1つの映画のような感じを覚えさせる。というか映画になってるわ。

核心部分が謎なのは,突き詰めれば世の中そんなもんだから。

 

表現内容 ★★★★★+★

反社会的な内容。

よくもまぁこんなとんでもないことを考えたと思わせる表現。

想像力を全部使ってえぐい事考えてと言われてもそこまで考え付くかわからんレベルの表現力は,私含むパンピには刺激が強すぎる!

しかも,絵でグロさエグさを過剰表現すると言う感じではない。

むしろ,絵の具合は淡々とすらしている。

嗚呼,★6つ。

 

狂気 ★★★★★

狂気に満ちています・・・・が,変なリアリティがあるので余計に怖い。

現実的な狂気といいますか,そのあたりの描写力はただ事ではない。

 

<ここが凄い!>

この漫画の凄いところは,「予想の斜め上」でしょうか。

本当に,よくもまぁそんなこと思いつきますな,と思う現実的狂気が全巻通じて満ちております。

しかも,前述したとおり,ストーリーがしっかりした漫画なので,

ヤバいと思いながらも次の巻を手にしてしまう,吸引力があるのです。

時間泥棒になること必至。絵柄が変に読みやすいところも憎い。

とんでもない問題作であろうが,ある種の名作であるところは間違いない。

当職の太鼓判であります。

 

<用法のご注意>

読みだすと止まらなくなる可能性が高いですが,一度に読み切ってしまうと余韻でこっちがおかしくなってしまうかもしれません。

くれぐれもグロ,反社会性に耐性のない方はオーバードーズにご注意ください。

読み終わった後,社会常識って何?ってなるかもしれません。

 

 

 

 

 

 

 

【漫画の処方箋】速水螺旋人著「大砲とスタンプ」

当職は,おっさんになってしまった。

年齢的に,である。

 

子どものころ,おっさんになれば子どもが好きなものは嫌いになると思っていた。

しかし,現実に自分がおっさんになってみると,

以外や以外,結構子どもの頃好きだったものをずっと好きなままでいる自分に気付く。

 

当職は,子供のころから戦車やら飛行機やらが好きだったが,

成人してからも好きであり,

おっさんになっても好きである。

当職がおかしいのか,あるいは男とはそうしたものなのか。

 

さて,おっさんになっても戦車や飛行機などドンパチ系の乗り物が好きな当職,

当然,漫画好きも相まって戦車や飛行機などがテーマの漫画もついつい手に取ってしまう。

幸いなことにミリタリーテーマの漫画は世にあふれており,

大変うれしいのであるが,

どちらかというとミリタリー×萌えテーマの組み合わせが苦手である。

せっかくドンパチするのであるから,

土臭く,むくつけきおっさんが登場してほしいというのが希望である。

それでこそ,戦という雰囲気が出るのではないかと思うのである。

 

では,今回ご紹介する漫画【大砲とスタンプ】は,

さぞむくつけきおっさんが泥と汗にまみれている劇画風の漫画であろうと期待されるかもしれない。

申し訳ないが,先ほど述べた舌の根が乾かぬうちから,

マイルド系のミリタリー漫画のご紹介である。

 

なぜ,これがいいのかという点について成分なども踏まえてご紹介しよう。

 

<成分>

絵柄 ★★★★☆

極めてマイルドな絵柄で,萌えに片足を突っ込んでいるのではないかとの疑いがある。

劇画系が好きならばちょっときついかもしれないが,

ゴリゴリの萌系でもなければ劇画でもなく,丸っこい描き方が読み手を選ばないので,副作用の心配が少ない。

 

ストーリー ★★★★☆

短話終了系で壮大な目的のないもの。

ミリタリー系だがコメディでもある,とっつきやすい話の展開である。

しかし,随所にミリタリー好きならアンテナが反応するサムシングをちりばめているあたり,ガッツリしたミリタリーマニアも楽しめるいい感じのストーリーである。

これも副作用少なし。

 

エロ ★☆☆☆☆

そもそも,絵柄がマイルドなので,ちびまるこちゃんの絵柄を見て欲情するような猛者でない限りエロの期待はあまりできないと思われる。

なお,ストーリー的には若干エロスが混在することもあるが,絵柄とあっさりしたストーリー展開のため,エロ期待はほぼできないと思ってもらっていい。

 

ドンパチ ★☆☆☆☆

あるにはある。

が,これまたとってもマイルドである。

泥にまみれて塹壕戦をするわけでもなく,敵国の撃墜王と手に汗握るドッグファイトをすることもない。

そういう漫画ではないと割り切ってもらうしかない。

 

<ここが凄い!>

この漫画の凄いところは,<既視感のなさ>である。

当職は,前述したようにミリタリー漫画好きであり,散々色々な同系統の漫画を読んだが,

ミリタリー漫画は,どうにも似たり寄ったり,どっかで見たような話が多いのである。

ところが,この「大砲とスタンプ」は,既視感が全くのゼロなのである。

そもそも,兵站軍(※補給系)をテーマにしているあたりがちょっと珍しいのであるが,テーマ自体が物珍しくても,中身はどっかで見たことがあるような漫画はたくさんある。

この「大砲とスタンプ」は,テーマはもちろん,中身についても既視感ゼロ,目新しいことずくしなのである。

 

もちろん,これまでミリタリーにそこまで興味がない人でも,マイルドな絵柄とストーリーは十分楽しめると思われる。

しかし,最もお勧めしたいのは,ちょっとミリタリー系が好きだけれども,似たようなミリタリー漫画は食傷気味という耐性のついてしまった方に是非読んでいただきたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【漫画の処方箋】曽田正人著「昴」

「死せる孔明,生ける仲達を走らす。」

 

既に亡き人物が,その生前の威光や権威によって生きている人物に大きな影響を与える謂である。

 

本当に申し訳ないが,上記古言と本投稿とは関連性がない。

何が言いたいか,というと,読み手を走らせる漫画が存在する,ということを言いたいのである。

じゃあ,先の古言はいらんがな,との声が聞こえてきそうである。

その通りである。深く謝意を述べる次第である。

 

錯綜した冒頭に引き続き,本題に入るとする。

 

興味を持った時には,既に一定数の既刊が出ている漫画が存在する。

当職は,雰囲気などで取敢えず1巻だけ買う場合,3巻ほど買う場合,全巻買うという暴挙に出る場合がある。

 

全巻買うような暴挙(以前の記事「夏の前日」など)に出ることは,

まぁあまりない。

 

8割方1巻のみを購入し,残り1割5分ぐらいが3巻まとめ買いであろうか。

 

当回でご紹介する「昴」,ご存じのとおり「め組の大吾」で名をはせた,

曽田正人氏の著作である。

漫画が上手いのはお墨付きであろうから,3巻まとめ買いした。

 

早速1巻を読了し,流れるように2巻を読了する。

3巻を読了したときに,当職は決意した。

「続きを読まにゃいかん」

 

確か,3巻を読了したときは,夜もとっぷり暮れていた様に記憶しているが,

この漫画の熱量は,そんなことを構いつける暇などないものであった。

当職は夜走獣のごとく,夜の街を疾走し,残りの既刊を購入せざるを得なかった。

 

良い漫画は,人を走らせるのである。

 

なお,「昴」の他に,雨の中原付を疾走させて続きを買いに走った漫画がある。

花沢健吾著「ボーイズオンザラン」である。

まさにタイトルの如しである。この漫画も併せておすすめしたい。

 

≪成分≫

スポ根 ★★★★★

恋愛  ★☆☆☆☆

 

主たる漫画成分は,「スポ根」漫画であるといえる。

絵柄は表紙からもわかるように,コッテリキラキラ系のいかにも恋愛しそうな女性が描かれているが,完全無欠のスポ根漫画である。

汗と涙と美しいポワントで構成された漫画である。

 

絵柄 ★★★★☆

 

主人公は眉目秀麗,スタイル抜群であるが,それをキラキラ感満載かつ勢いのある筆致で描写しており,単にキラキラ系の漫画ではない。

さすがは曽田氏,人体のデッサン,人間の美しさを表現する素晴らしい画力をお持ちである。

バレエ漫画のバガボンドのような感じ。

 

ストーリー ★★★☆☆

とってもいいんですよ。とっても。しかし,なんかもやっとする終盤と終わり方については賛否があってもいいのでは。

特に,中盤の盛り上がりはマジで鳥肌ものです。というか,鳥肌たった。

よくもまぁ,漫画でこれだけの表現ができたものだと感心。

もし,終盤と終わり方が完璧ならば,確実に殿堂入りした漫画と言えよう。

 

≪ここが凄い!≫

この漫画,従来のスポ根漫画と一線を画する部分がある。

スポ根漫画に必須の要素である,圧倒的熱量を備えていること。

それは十分であるといえる。

ただ,スポ根漫画は,熱量を一歩間違うとあまりにも人間離れした必殺技のオンパレードでドラゴンボール化してしまう危険性もある。

そうなると,スポーツ漫画としてのリアリティを欠損してしまう。

スポーツ漫画のリアリティと熱量,このバランスが難しいのである。

 

「昴」は,その人間離れした熱量部分を,

「幻想的」に描くところが絶妙なセンスといえる。

 

「幻想的」な雰囲気と「スポ根」は一種相容れない部分があるものの,

「昴」では,それを作者の腕で適切にマッチさせているのである。

 

少しいい方を変えれば,夢見心地でスポーツ観戦をしている雰囲気とでもいえようか。

 

≪読み方≫

当漫画を服用される際には,ぜひ一気読みしてほしい。

「昴」の幻覚作用を最大限引き出すためには,9巻丸ごと読めるだけのたっぷりした時間が必要だと思われる。

分割して服用すると,幻覚作用が減退してしまうかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

【漫画の処方箋】都留泰作著「ナチュン」

いい雰囲気の漫画の平置きがあると,足を止めて眺めるのは国民の義務であろう。

その漫画に試し読みが付いていれば,少し拝読するのが紳士のマナーであろう。

 

今回ご紹介する漫画「ナチュン」と当職が出会ったとき,当漫画は1巻丸ごと試し読み可能な状態であった。

 

いくら,紳士とはいえ,1巻丸ごと試し読みするのは,心身の労力(当職は当時,頑固な痔主であり,長時間一定姿勢を保つのは苦行であった),時間の浪費を考えると,あまり現実的ではない。

 

しかし,据え漫画読まぬは漢の恥,当職は,折衷的に,少し試し読みすることにした。これでマナー違反にはなるまい。

不味い料理を最後まで食べる義務はない。

国民には,面白くない漫画を読まない自由も保障されている(はずである)。

 

当漫画には,ポップが付いており,「SF大スペクタクル!」とある。

えらく大上段な構えできているが,果たしてどんなものか。

 

少し読んでみると,ほとんどSFチックな要素はない。

 

なるほど,沖縄を舞台にしているだけあって,沖縄の描写は非常に精緻である。

 

さらに読んでみた。

 

まだSFチックな雰囲気はない。

 

気が付くと,1巻読み終わった。

 

1巻には,ほとんどSFチックな要素はなかった。

 

 

 

全然SFやないやんけ!

 

 

 

しかし,問題は,ポップが虚偽かどうかではない。

 

なんの変哲もない沖縄の描写だけで,痔主の当職が,目を離すこともできず,1巻読み切ってしまうことにある。

凄まじい読ませる力を感じた。

 

 

当職は,出ている巻を全て購入した。

 

 

 

≪成分≫

ストーリー 途中まで ★★★★★

      締め   ★★★☆☆

 

買ってよかった!と思わせる激動の展開が待ってました!

20世紀少年のような,次の展開を熱望してしまう脅威のストーリー,1巻ののんびりした雰囲気は?と思わせる,広がるスペクタクル!

まず,途中までは損しません。間違いありません。

読めばわかります。1巻全部を試し読みさせる必要があったのです。むしろ,本来ならば2巻のはじめぐらいまで試し読みしないとわからないかもしれません。

この漫画を1巻丸ごと試し読み可とした書店員は,漫画のことを良くわかっていると思います。

英断です。当職,喝采を送ります。名乗り出てくれれば一席ご馳走したいぐらいです。

しかし,締めについては,当職納得いっておりません。

なぜ納得いかないかは,ご自身の目で確かめるのが紳士淑女のマナーでしょう。

 

絵柄 ★★★☆☆

 

精緻な描写で丁寧な記載ですが,キラキラっぽさや萌要素はほとんどありません。また劇画でもありません。

特徴的な絵柄ではないことから,読み手にアレルギーを生じさせることはほとんどないでしょう。

ただ,絵柄買いをすることもないと思います。

 

エロ ★★★★☆

 

ちょっと読んでもらえるとわかるのですが,あんまりエロさを感じさせません。

この漫画でどうやって興奮すんの?という展開からはじまるのですが,いやはや,これがまた,ちゃーんとお楽しみがあるのですな!

しかし,ご褒美タイム,お約束という感じのエロではなく,ストーリー上必要なエロス,そしてなんかよくわからんけれど無駄に興奮する描写力。

想像力豊かな方ほど,無駄に興奮すること必至!

 

≪ここが凄い!≫

人にもよるのかもしれませんが,この漫画の凄さを一言で述べると

「圧倒的雰囲気」

です。

ストーリー等の秀逸さばかり目立っておりますが,当職は,あえてこの漫画を「究極の雰囲気漫画」とさせていただきたく思っております。

 

これは読んだ人にしかわからない。

ガキのころ,はじめて金曜ロードショーラピュタや老人Zを見た変な興奮とソワソワ感を大人になっても味わえるはずです。

 

ただ,万人にこのソワソワ薬効が効くかどうかはわかりません。

幼少期にテレビでジブリの再放送をやっていて,それを見て興奮できた層には効くんではなかろうかと思います。

 

効くか効かないかは,読んでみなければわからない!

面白そうだと思った諸兄は,ぜひ一度読んでもよろしいのではないかと思います。

 

 

 

 

 

 

 

 

【漫画の処方箋】吉田基己著「夏の前日」※若干ネタバレ

※ご紹介にあたり,若干のネタバレがあります。ご注意の上お読みください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

当職が初めて当漫画を手に取ったのは書店の平置きであった。

書店員作成にかかるポップに「超おススメ!!」なる趣旨の記載があり,当職は,ほぅ,と小さな奇声を上げて手に取ったのである。

 

若干古めかしい雰囲気の表紙は当職好みであった。

おそらく恋愛物の漫画であろうと読み取れる雰囲気である。

はじめだけ試し読みが許されるタイプの平置きがなされている。

試し読みがあるのは嬉しい。大抵の漫画は,初め少し読めば,自分に合うか合わないかの判断ができるからである。

 

少し読んだところで,当職は驚愕した。

なんと,読み始めて早々に,主人公とヒロインがまぐわったのである。

試し読みのレベルで,である。

 

恋愛漫画といえば,接吻まで焦らし,さらに契るまで焦らし,やっと結ばれたあたりでクライマックスというのが王道であろうか。

ところが,当漫画,何を思ったのか,普通の漫画ならば後生大事にとっておくはずの交合シーンを,惜しげもなく披露したではないか。

 

当職は,まず1つの可能性を疑った。

単なるエロ漫画ではなかろうかと。

 

しかし,書籍の雰囲気,まぐわいの描写から,昨今青少年のために規制されるべき過剰な演出は認められなかった。

 

もう1つの可能性を考えた。

これは,著者の我々読者に対する挑戦ではなかろうかと。

普通ならば,接吻等を1つの到達点としてストーリーを形成するわけであるが,この漫画は,先にそれを見せてしまう。それでも,漫画としての面白さを維持できるのであろうか。

作者の声が聞こえるような気がした。

「これからもっと面白いストーリー展開を魅せてやろう」と。

 

これは,著者の,当職に対する挑戦とみた。

 

当職は,この喧嘩(漫画)を買うことにした。

 

すぐに,全巻購入した。

 

 

 

 

 

 

ストーリー ★★★★☆

予測できない展開,細やかな人物描写など,高い評価を加えられて良い部分は多数あるといえる。

が,作者の挑戦であるストーリー部分は,辛くも★5つはつけられないというのが当職の見解であろうか。

決して流れは悪くないのだが・・・。

読んでみて損はない。が,何か物足りない気がするのは当職だけか?

 

絵柄 ★★★★☆

優しい絵柄である。性描写を含めて過剰な演出はない。

好みを選ばない,穏やかなタッチは漫画の雰囲気に合致する。人によってアレルギーを起こす可能性は低いだろう。

しかし,そこまで特徴的な絵柄ではないし,過剰な演出もないことから,読者層によっては物足りないか。

 

人物描写 ★★★★☆

漫画の雰囲気を醸し出すにあたり,これも優しい人物描写がなされており,闇金ウシジマくんに登場するようなありえない人畜などは1人たりとも登場しない。

ヒロインについては,当職の好みを聴取して設定したのかと思われるほどある種の理想的女性であり,かつ今までにないタイプの性格設定で,著者の力量をうかがわせるものである。

・・・・が,かといってもう一つパンチが効いてもいいような悪いような。

 

エロ ★★★☆☆

多少の期待は持って良いかもしれないが,青少年を惑わせるような過剰な演出なない。

大人のお姉さんがみんなこうではない,というあたりはフィクションか。

 

≪ここが凄い!!≫

この漫画の凄さは,のっけから交合させたり,「ちょっと通常では予測できないストーリー展開」であろう。

一般的な恋愛漫画であれば,なんとなく使い古された展開にデジャヴを覚えることも多いが,この漫画に限ってはほとんどそれはなかった。

そのため最後までどうなるのか全く予測できないまま,諸兄は最終巻を迎えることになるであろう。

なお,繰り返すが,ヒロイン女性の設定は,個人的に極めて秀逸であると思う。

 

総評 ★★★★☆

全ての評価において,平均値以上の評価が下されるべき,まさに「秀作」といえるべき漫画。

読んで損はない。

ただ,なんといいますか,パンチ力がないといいますか。

そこがこの漫画のいいところとも悪いところともいえます。

エロ描写も過剰ではないので,万民が読んでよろしい漫画ではないかと思われます。